『Lavender Quartz 境界秤動』ができるまで - サウンドデザイン編
こんにちは、LM7です。
さて、今回お送りするのはサウンドデザイン編です。
LQ境界秤動ができるまでは、これで一区切りとなります。
2024年も終わりに近づいてきた頃だったでしょうか。
境界秤動の制作も随分進んできました。
とても不思議なことが起きているように感じました。
ゲームって作り始めても完成しないことが普通だと思っていたんですが・・・
どうもこのゲーム、本当に完成する気配がしてきました。
とはいえまだ80%位の確率で完成するのかな?くらいに思っていて、まだ確信はありませんでした。
もちろん、完成させる意思があって作っているのですが、不測の事態というのは往々にしてあるものですから、
何事も100%とは言えません。
とはいえ、かなりの確率で完成しそうだなという気配がいよいよ出てきたのが、この頃でした。
こうなってくると、ゲームを構成する要素のうち、これまで全く手をつけていなかった部分にも、目を向け始める必要が出てきました。その一つが、サウンド周り。
この時点では、効果音にしろ、音楽にしろ、一切何もありません。
はて、一体どうしたものか・・・
途方にくれていると、南が Soundsnap という効果音サービスを教えてくれました。
手頃な価格で、大量の高品質なサウンド素材が提供されているとのこと。
実際に覗いてみると、かなり長めのアンビエントっぽいサウンド、街っぽい環境音など、有用そうなものが大量にありました。
こういう音だけでも結構いい感じになるかもしれません。
そう思い、長めの街の背景音、工場の音、鳥の鳴き声、電車の音、風の音、車の音などを手当たり次第にダウンロードして、
ゲーム中に組み込み始めました。
環境、雰囲気、そういうものには、結構こだわりがある方なので、繰り返し感をあまり感じさせないように、生っぽい長めの音を重点的に選びました。特に、車のエンジン音系は、車種に違和感の少ないエンジン種類、キャラクターの感情にマッチしたエギゾースト、走行のアグレッシブさを考慮して、慎重に入れ込みました。
また、衝撃音などは、意図的に音圧が低めのものを選んでいます。また、ゲーム中で、破壊的なことが起きていても、あえて効果音を入れていないところも、多々あります。これは、全体の雰囲気の中で、映画などと違い、すべての文に対する効果音が鳴っているわけではないので、その部分だけ突然ドラマチックな衝撃音がなるのは違和感があるし、ノベルゲーにおいて音量調節で期待していた以上の効果音が突然鳴ってびっくりする、というのは往々にしてあることだからです。
このような意図から、突発的な衝撃音系の効果音は、最小限にするか、もしくは省略しています。
さて、このようにして一通りすべての効果音を入れてみたところ・・・
なんとも驚くべきことに、ゲームとして完成しているかのようなものになっているではありませんか!
文、絵、音と要素が揃ったら、それはもうノベルゲームと言い張っても文句は出ない・・ことはないでしょうが、言い張ってもいいでしょう。おそらくは。そういう気分になってきたのです。
とはいえ、やはり効果音だけではすこし物足りなさも存在します。
サウンドトラックも必要なのかもしれません。
とはいえ、サウンドトラック全体を発注するようなリソースは存在しない制作体制なので、とりあえず自力でなんとかするしかありません。すっかり忘れていたのですが、数年前に買った MacBook Pro には Logic Pro が入っていたのです。
Logic Pro が入っているということは・・・そう、音楽が作れるということ。
では、音楽を作ったことがあるのかというと・・・別にありません。
しかし、作れるということは、作ってもいいということ。
とりあえず、AKAI の MPK mini MK3 を買って、気分を高め、あたかも作曲ができるかのように Logic Pro を起動します。

何をするのかわからないノブとかスライダがいっぱいついています。
Alchemy というソフト、、シンセ、、サイザー??のいろんなところを押すと、よくわかりませんが、かっこいい音がたくさん出ます。トラックを一つにしておけばとりあえず不協和音が鳴ることはないでしょう。(鳴ります)
まずほとんど環境音のサンプリングのような音源を一つ二つ重ねたくらいなら、ほぼ効果音と同質ですから、いくら素人仕事とはいっても少なくとも無害の範囲には収まるでしょう。とはいえ、お金を払って頂く商品として制作していますから、滅茶苦茶に酷かったら大人しく効果音だけで完成ということにする、という気持ちでいくつか試作していきます。


笑ってしまうほど単純なMIDIトラックの例。しかしAlchemyの録音音源が元から高品質で複雑な音であるため、ある程度のそれっぽさは出ます。

youtubeで “how to make drill beat” と必死に検索して作ったdrillの例
このようにして、場面ごとに合わせて、曲を制作していくことを重ねて行きました。
場面ごとにあってほしい音のイメージ自体は明確に存在したので、その点に関しては作品全体で統一感をちゃんと出せたのではないかと思っています。
その後のプレイテストの段階で、品質に不満が出たら排除するつもりでしたが、まあ全然いけるんじゃない?という反応だったため、そのまま残すこととなりました。最終的に全部の場面ごとに28曲ほど作りました。多分同じBGMを使いまわしている箇所はないはずです。比較的コンパクトな作りだから許される手法ですね。
その後も、テストプレイの感想をもとにマスタリングをやり直したり、曲を追加したり、地味な手直しを重ねたものが、最終的に現在の形になりました。

自分の中ではそこそこ上手くできたと思っている曲の例
さて、ここまでは本編中のサウンドトラックの話でしたが、境界秤動を語る上で欠かせないのが、Yamaji 様に書いていただいたメインテーマ曲、Ophiuchus です。
サウンドトラックを一応形の上では追加してみたものの、やはり曲として単一の強度を持つものはまだ存在していませんでした。自分自身でも、自分の能力の範囲内でキャッチーな曲、それ単一で強度を発揮できるような完成度の曲を用意することは完全に能力外のことであるという認識がありました。
そして、ライターである葵と、自分のなかで、境界秤動を作っている間中、共有していた認識。
それは、Astray って、、、、良いよね。ということ。
脳内で、境界秤動のアニメOPがあって、そこではAstray (Yamaji様の楽曲)が流れている。それがアカシックレコードである。
そういう状態で、もしかして、、、もしかしてだけど、、、お願いしたらYamaji様が、、、テーマ曲を書いてくれる、、、そんな世界線もあるんじゃないか?という思いが二人の中で高まりきってきていました。
これはもう打診してみるしかない。という決定が為されました。
最終的に、ゲームの完成が現実的になってきたという確信が持てたタイミングで、Yamaji様にお声掛けさせていただき、快諾いただけたときの喜び、、、とても言葉では言い表しきれないですね。
本当に嬉しかったです。この境界秤動の世界にある空気を呼吸できるのは、Yamaji様しかいない。それは明らかなことでした。必然とはまさにこのこと。ライターと二人で盛り上がり放題でした。
そして、企画資料とテストプレイ用のビルドをお送りして、デモ音源が手元に届いたときの感動。
ビルド版を遊んでいただけただけではなくて、キャラの関係性、背景、モチーフ、そういうところまで読み込んでいただいたうえで書かれた曲と歌詞、愕然とするほどの理解量、想像を超える展開の曲運び・・・それを受け取ったとき、これこそが、何かを作り出すために、人生の大半を費やすことの価値に他ならないと思ったわけです。誰かと協力して、何かを生み出す。そのことの意味を実感する瞬間です。
自分一人でできないことというのは確実に存在するのです。
しかしそれは呪いではありません。
Logic Pro を持っているということは、理論上、曲が作れるということです。しかし、作れない曲もある。これが現実です。
こうなると、誰かと協力する必要が出てきます。
どういうものが欲しいのか、なぜ欲しいのか、なぜ、協力を求める人としてあなたを選んだのか。そういうことを説明する必要があります。人と人は別々の存在ですから、考えていることは基本的に違います。
しかし、奇妙な偶然の巡り合わせで、僅かな間だけでも価値観を共有し、協力して一人では到底不可能だったことを成し遂げられる、という瞬間が度々やってきます。これは、一人でなにかを作っているだけでは得られない喜びです。
他人を理解することは不可能であり、それは未知であるがゆえに、途方もなく面白いことがあるからです。
理解できないからこそ、必死にお互いを理解しようとする、その過程には尊重が不可欠であり、尊重こそは、人間が受け取れる感情の中で最も価値あるもののひとつだからです。それは人間としての生活の重要な側面の一つです。
もちろん、一人だけでなにかを作ることが不完全であるとか、そういう話ではありません。
自分にとって不可能なことが存在することに気づいたとき、それを旅路への呼び声として捉えることもできるということです。
自分以外の存在との旅路は、時折予想だにしなかった着地点に自らを導くことになることもあるのです。
どのような局面であれそれは、他人との運命が絡み合ったあなただけが手にした奇跡だということです。
イコヌもそうだと言っていますよ。
ではまた。